『桐沢たえのトクサツの話がしたい』 第6回・第1話が神回の話 ~仮面ライダー編~
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『桐沢たえのトクサツの話がしたい』 第6回・第1話が神回の話 ~仮面ライダー編~

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※この連載は私、桐沢たえがスーパー戦隊や仮面ライダーやウルトラマンなど特撮ヒーロー作品について「話したい」ことを好き勝手に話す偏愛なコラムです。

第4回~第6回は、仮面ライダーシリーズでの「個人的に1話が神回だと思う戦隊」について話していきます!(連載を始めるまでの経緯はコチラ

今月は……

『仮面ライダーゴースト』第1話「開眼!俺!」

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©石森プロ・東映

「第1話が神回の話とかどうでしょう?」と、この連載の企画を練っている時に言ったのは他でもなく私自身なのだが、このテーマで5回書いてきて思ったことがある。

それは「第1話が神回の場合、主人公がだいたい最初から無双してる」ということである。そりゃそうだろう。突如として現れた悪の軍団に逃げ惑う人々、そこに颯爽と現れる最強の正義の味方!これこそヒーロー番組の王道だし、これ以上に主人公がカッコ良く見えるシチュエーションもそうそう無い。でも、だからこそ思う。そのパターン以外での「神回な第1話」はないのだろうかと。

主人公が悪戦苦闘し、何なら敵に敗北してしまうのにも関わらず「神回」な第1話は……。ここまで言えば、ライダーファンの皆様ならもうお察しだろう。そう、ある。それが今回紹介する平成仮面ライダーシリーズ第17作目『仮面ライダーゴースト』第1話「開眼!俺!」だ。

大天空寺なる寺の息子、天空寺タケル。18歳の誕生日を迎えるその日、彼の元に10年前に死んだ父親から小包が届く。中に入っていた目玉の形をした球体、通称「眼魂」に触れた瞬間、タケルは「眼魔」と呼ばれる異世界から地球に送り込まれた怪人が見える体質となり、眼魂を奪いにやってきた眼魔2体に追われる身となってしまう。必死に応戦するタケルだが、彼は戦う術を持たない至って普通の青年。為す術もなく眼魔に斬られ、絶命してしまう……。なかなか子ども向け番組にしてはハードな始まり方だが、『ゴースト』の第1話が面白いのはここから。

あの世とこの世の境目に辿り着いたタケルは、そこで自らを「仙人」と呼ぶ謎の男から「仮面ライダーゴースト」に変身して眼魔たちと戦い、英雄の魂が宿る眼魂を15個集めれば何でもひとつ願いを叶えることができ、生き返ることも可能だという話を聞かされるが、この説明シーンの間じゅう、仙人を演じる俳優の竹中直人さんのコメディアンぶりが大爆発しており、物語の根幹に関わる大事な話なのに笑いが止まらない。

さらに、一つ目オバケのような可愛らしい見た目の使い魔、ユルセンも登場し、主人公の敗北から始まったはずの物語はなぜかどんどん明るく賑やかになっていく。この明るさや賑やかさは、「死」というシリアスなテーマを持ちながらも、それをおどろおどろしさや恐怖感とは別の方向から一年間アプローチし続けた『ゴースト』の大きな特徴でもある。

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©石森プロ・東映

霊体となって現世に戻り、再び眼魔と相見えるタケル。「俺は、もう後悔しない!俺がみんなの命を守る!」とカッコ良く告げたのはいいものの、変身ベルト(ゴーストドライバー)の使い方が分からず「えっと……どうすればいいんだっけ?」と戸惑うのもタケルらしい。「眼魂のスイッチを入れて、ベルトに装填して変身だ!」ユルセンに言われるがまま操作をすると、タケルの体は影のように黒く覆われ、さらにドライバー中央から出現した黒いパーカーの幽霊が彼をユラユラと追いかけてくる。

「お前、なんのつもりだ!」問うてくる眼魔に思わず「俺が聞きたいよ!」と返しながら逃げ惑うも、ついぞよろけて転び、四つん這いになったタケルの背中にパーカーの幽霊がギュッとハグするように覆い被さる。その瞬間、真っ黒だったタケルの顔面にパッと鮮やかなオレンジ色に光り、彼は仮面ライダーゴーストへの変身を遂げるのだった!

後にも先にも、主人公が逃げ回り、地に伏せた状態で初変身を行った仮面ライダーというのもゴーストくらいではないだろうか。それはいわゆる「カッコいいヒーローの変身」とは程遠いものなのかもしれないが、それでも筆者はこのゴーストの初変身シーンが本当に好きで好きでたまらない。見返す度に泣けてしまうほど好きだ。

暗い森の中でマスクや全身に入った紋様を眩しく発光させるゴーストは幻想的な美しさに満ち、それでいて人の運命が大きく変わる瞬間というのは、誰しも思い描く理想通りになんか全くいかず、予想不能なことに振り回され、半べそをかき、がむしゃらになっているうちにいつの間にか「その時」は訪れているものだというある種のリアリズムにも凄くグッときてしまう。

「我らに勝てると思うのか!」睨みをきかせる眼魔にゴーストは勇気を振り絞って「ああ!」と力強く応え、「今度こそ俺は……俺を信じる!」と剣を構える。ついさっきまで幽霊や怪人に腰を抜かしていた青年が、決してカッコいいばかりとはいかない混乱の中で掴んだ「変身」という奇跡を握りしめて、この世のものならざる大きな脅威に立ち向かっていく。その痛々しいほど懸命でひたむきな覚悟を坂部剛さんによる荘厳なメインテーマ曲がさらにドラマティックに盛り立て、観ている私たちの胸に「がんばれタケル!仮面ライダーゴースト!」と思わず叫び出したくなるような熱い火を灯らせるのだ。

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©石森プロ・東映

過去にこの連載でも紹介した『仮面ライダーストロンガー』や『侍戦隊シンケンジャー』のような最初から主人公が最強なパターンとは真逆で、ゴーストの初陣は見ていて危なっかしいのだが、それがまた戦い方を知らないタケルならではという感じがするし、ふとした拍子に自分には浮遊能力があると気付き、ふわふわと空中を飛び回りながら「これ楽しい~!すごい便利!」などと戦闘中にも関わらず思わず浮かれてしまうところも年相応の無邪気さがあって可愛らしい。

仮面ライダーゴーストのスーツアクターを務めた高岩成二さんは撮影当時46歳であり、10代のタケルを演じた西銘駿さんとは一回り以上の年齢差があったが、目の前のことに素直に驚いたり喜んだりする様子はまさにピュアなタケルそのもので、「ミスター仮面ライダー」の異名を持つ高岩さんの流石の演技力には惚れ惚れとしてしまうほどだし、実年齢を超越したキャスティングが可能なスーツアクトという表現方法の可能性にも改めて唸らせられる。

果たして仮面ライダーゴーストとなったタケルは初めての眼魔退治を成功させられるのか?そして、無事に全ての英雄の眼魂を集め生き返ることはできるのか?気になる方は是非第1話を再生し、続きを楽しんでほしい。

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©石森プロ・東映

筆者は『仮面ライダーW』以降の「平成2期」と呼ばれる中であったら『ゴースト』が最も好きな作品だと豪語するくらいのゴーストファンだが、そんな私から見ても『ゴースト』はシリーズの中でも特に多くの要素を持った複雑な仮面ライダーであると思う。

タケルを始め、幼馴染のアカリ、大天空時の代理住職を務める御成を筆頭に、登場人物はみな愛すべきキャラクターで、先述したように、明るく賑やかな空気感は小さな子供たちにもとても親しみやすく、その一方で、『ゴースト』は身近な人物との別れを通して「死は人に何をもたらすのか」「人はなぜ限りある生を生きるのか」という深い問いを投げかける教育番組でもあり、「死を失った世界」の滅亡と再興を壮大なスケールで追うSF叙事詩でもある。(特に後者の要素を深掘りしたいファンの方は、本編視聴後にVシネマ『ゴーストRE:BIRTH 仮面ライダースペクター』と『小説 仮面ライダーゴースト ~未来への記憶~』も必見&必読だ)

硬軟両面を持つ本作をどの側面から楽しむかは視聴者の年齢や好みによると思うが、その全てに通ずる『ゴースト』の根幹にあるものは「やさしさ」と「あたたかさ」だ。死者の目線を通して見る、この世の色鮮やかなきらめき。風に搖れるコスモス。同じ時代に生まれた仲間たちの笑い声。眠りのやすらぎ。お腹が減ること。そうして頬張るおにぎりのおいしさ……そういった何でもないようなことひとつひとつの愛おしさがタケルたちの成長と共に描かれ、最終回を観終えた頃には誰しもが「命を燃やして生きる」ことのかけがえなさに気付き、切なくも幸せな気持ちに満たされる

『ゴースト』はそんな風に一度観た者の胸に残り続ける、「一生ものの名作」だと筆者は胸を張って言いたい。今年はなんとめでたくも『ゴースト』10周年という節目の年でもある。10年前にTVで観たという方も、これから観始めるという方も、この機会にタケルたちに出会い、共に生と死を巡るやさしくあたたかな冒険に出かけてみてはいかがだろうか。

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©石森プロ・東映

※スーツアクター情報は本人調べ

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