作家・中條ていの連作短編集を黒木華主演で映画化した『アイミタガイ』が、11月1日に劇場公開を迎えます。

『台風家族』の市井昌秀が脚本の骨組みをつくり、『半落ち』『ツレがうつになりまして。』で知られる佐々部清監督が温めていた本企画。2020年に亡くなった佐々部監督からバトンを受け継ぐ形で『彼女が好きなものは』の草野翔吾監督が手掛けました。

「相身互い＝同じ境遇や状況にある者同士が共感して助け合うこと」をテーマに、友人を亡くしたウェディングプランナー・梓（黒木）ほか様々な人々の人生が優しくつながっていくさまを描いた本作。主演の黒木さんに、作品との思い出を教えていただきました。

──近年まれに見るような優しさが繋がっていく作品と感じました。黒木さんがこの企画に触れた際、どのように感じられましたか？

黒木：田口トモロヲさんのセリフにもありますが「良い人しか出てこない物語」だなと感じました。　悪い意味ではなく、ただ人の温かみを感じられて、草野翔吾監督が意識して作られている（のだ）と思いますが、嘘くささが(ないように意識されたのだ)と思います。参加している際は、観た方々の希望になるような、そっと寄り添ってくれるような作品になればいいなと思っていました。

完成した作品を観たときも、まさにそう感じました。自分の知らないところで様々な人々が生きてきた時間がすべてつながっていて、まさに『アイミタガイ』というタイトルにふさわしい作品だなと思いました。脚本を読んでいたのでわかってはいましたが、中学時代の梓と叶海が聴いたピアノの旋律をこみちさん（草笛光子）が弾いていて、大人になった梓が誰かの幸せのためにピアニストを探し、自分の過去と繋がるところは「とてもよくできているな」と思いました。実際に同じ場所というのは理解していましたが、映像を観て点と点が線になる感じがありました。

──黒木さんが作品に臨むにあたり、楽しみにされていた部分はありましたか？

黒木：やはり草野監督と初めてご一緒すること、そして三重でじっくり時間をかけて撮影することですかね。なかなかないことなので、楽しみでした。

──土地柄なのか、町全体にも優しい空気が流れているように感じました。

黒木：草野監督が仰っていたのが「近鉄電車が川を通ってやってくる」ことです。街並みもゆったりしていますし、空も広い感じがありました。

──そんななか、ウェディングプランナーとしての梓の立ち振る舞いに説得力を感じました。どのような準備をされたのでしょう。

黒木：ウェディングプランナーさんがどういう仕事をされるのかを知らなかったので、まず資料をいただいてとにかく「ウソにならないように」という想いで演じました。そのうえで、見え方については監督にお任せしています。映画は最終的に監督が作るものだと思っているので、現場で監督が納得できるようにしていく──という気構えでいました。

──梓という役は、「亡くなった親友の死を受け入れられず、メッセージを送り続ける」「両親の離婚という過去から結婚に前向きになれない」という人物ですね。

黒木：私も結婚というものにあまり重きを置いておらず、「お相手が出来れば」くらいで、それよりも仕事に対して一生懸命なところがあります。ただ恋愛だけではないという部分など、みんな悩むことではないかと思いますし、共感を持って観ていただけるような人物ではないかなと思っていました。

友人にメッセージを送り続けることも、ただただ整理しきれてないのだろうなと捉えていました。でも日常は続いていくし、複雑な感情があって送り続けてしまうに至ったのだと思いながら演じていました。

──今回は主題歌にも挑戦されました。完成披露試写会の場で「外堀を埋められた」と仰っていましたが、改めていかがでしたか？

黒木：恥ずかしかったですね。歌唱指導の先生に助けていただいてなんとか形になったので、皆さんが聴いて良かったと思って下さったなら、やって良かったなと思います。

私自身は歌のプロではありませんし、芝居の中でその人物として歌うのともまた違いますし、不思議な感覚でした。

──以前「芸能人として呼ばれること、芸能界に身を置いていることに違和感を覚えてしまう時がある」とお話しされていましたが、今現在の心境はいかがですか？

黒木：昔よりいい意味で適当になった気がします。友人に話して解消することもありますし、自分が少し年を取ってきて周りのことというより自分のことをちゃんと見れるようになってきたのが大きいのかなとは思います。根がネガティブな面もあるのですが、悩んでいても仕方ないなと思えるようになってきました。

──そんな黒木さんが、今後チャレンジしたい作品はありますか？

黒木：やったことのない役はやってみたいですし、今までご一緒したことのない海外の演出家さんとの仕事や海外作品にも取り組んでみたいです。安定して舞台に出続けたいとも思っていますし、自分が面白いと思えて楽しく過ごせるような場所で、お芝居をずっと続けていきたいです。

作品概要

『アイミタガイ』

2024年11月1日（金）TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー

ウェディングプランナーとして働く梓（黒木華）のもとに、ある日突然届いたのは、親友の叶海（藤間爽子）が命を落としたという知らせだった。交際相手の澄人（中村蒼）との結婚に踏み出せず、生前の叶海と交わしていたトーク画面に、変わらずメッセージを送り続ける。同じ頃、叶海の両親の朋子（西田尚美）と優作（田口トモロヲ）は、とある児童養護施設から娘宛てのカードを受け取っていた。そして遺品のスマホには、溜まっていたメッセージの存在を知らせる新たな通知も。一方、金婚式を担当することになった梓は、叔母の紹介でピアノ演奏を頼みに行ったこみち（草笛光子）の家で中学時代の記憶をふいに思い出す。叶海と二人で聴いたピアノの音色。大事なときに背中を押してくれたのはいつも叶海だった。梓は思わず送る。「叶海がいないと前に進めないよ」。その瞬間、読まれるはずのない送信済みのメッセージに一斉に既読がついて……。

【出演】黒木華
中村蒼　藤間爽子
安藤玉恵　近藤華　白鳥玉季　吉岡睦雄 ／ 松本利夫（EXILE） 升毅 ／ 西田尚美　田口トモロヲ
風吹ジュン／草笛光子 

【原作】中條てい「アイミタガイ」（幻冬舎文庫）　

【監督】草野翔吾　【脚本】市井昌秀　佐々部清　草野翔吾　【音楽】富貴晴美