『ダンダダン』が、べらぼうに面白い!
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『ダンダダン』が、べらぼうに面白い!

2024.12.20 09:00

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原作は、「少年ジャンプ+」のPV数が3億6000万、コミックの累計発行部数が400万部を突破した、龍幸伸による人気漫画。高校生のモモとオカルンがひょんなことから特殊能力を身につけ、さまざまな妖怪・宇宙人と立ち向かっていくオカルティック・アクションだ。

超話題作のアニメ化とあって、スタッフ&キャストには最高の布陣が揃っている。監督は、『映像研には手を出すな!』(2020年)や『四畳半タイムマシンブルース』(2022年)に副監督として参画した山代風我。脚本&シリーズ構成は、『呪術廻戦』(2020年)や『チェンソーマン』(2022年)の瀬古浩司。若山詩音、花江夏樹、水樹奈々、田中真弓ら若手・ベテランの人気声優が集結し、オープニングの主題歌「オトノケ - Otonoke」をCreepy Nuts、エンディングテーマ「TAIDADA」をずっと真夜中でいいのにと、当代きっての人気ミュージシャンが担当していることも話題を呼んでいる。

本稿では、究極のミクスチャー・エンターテインメント作品『ダンダダン』の魅力について探っていこう。

オカルトだったらオール・オーケー!的ノリから生まれる、「異文化への理解」

公式サイトには、「オカルティックバトル&青春物語、開幕!」というコピーが踊っているが、まさしく本作は「オカルト+アクション+恋愛+学園もの+コメディ」という趣き。あらゆるジャンルを節操なくミックスさせるサンプリング的手法は、ややもすれば散漫な印象を与えてしまうリスクもあるが、緩急をつけた演出の妙と、キャラクターの圧倒的な魅力(モモとオカルンの掛け合いは一生見ていられる!)によって、物語としての強度を高めている。

しかも、幽霊なら幽霊、妖怪なら妖怪、UFOならUFOと、オカルトの方向性をひとつに絞るのが普通の感覚だと思うのだが、『ダンダダン』の場合は何でもありの闇鍋状態。霊媒師の祖母を持つモモは、宇宙人にさらわれたことで超能力が目覚め、宇宙オタクのオカルンは、妖怪ターボババアに呪われたことで変身能力を身につける。「オカルト+アクション+恋愛+学園もの+コメディ」のオカルト要素すらも、多様なジャンルで構築されているのだ。

ダンダダン
©龍幸伸/集英社・ダンダダン製作委員会

原作者の龍幸伸は、『ダンダダン』を描くきっかけとなった作品として、映画『貞子vs伽椰子』(2016年)を挙げている。

Jホラー路線ど真ん中の『リング』や『呪怨』シリーズではなく、異種格闘技戦的スピンオフに惹かれたというのは、非常に興味深い。オカルトというテーマは、あくまで世界観を創り上げるための背景。むしろ物語を牽引するのは、バリバリのバトル・アクションだ。エンタメ濃度の高い『貞子vs伽椰子』のエッセンスが、この作品のトンマナに大きく影響を与えている。

さらに『ダンダダン』は、「オカルトだったらオール・オーケー!」的ノリによって、異文化への理解、他者への理解という、グローバル時代にあって最も重要なテーマが前傾化している。UFOは信じてないけど幽霊は信じてるギャル系女子高生・モモと、UFOは信じてるけど幽霊は信じてないオタク系男子高校生・オカルン。お互いが否定する存在を信じさせるため、モモはUFOスポットの病院廃墟へ、オカルンは心霊スポットのトンネルへ向かい、未曾有の事態に遭遇する。別クラスタ同士が強制的にバディになることによって、相互理解が生まれるのだ。

ダンダダン
©龍幸伸/集英社・ダンダダン製作委員会

1軍女子や3軍男子というスクールカースト構造すらも、相互理解というテーマに寄与している。ギャルとオタク系男子という水と油の関係に、あざと可愛い女子・愛羅が参戦してくることで、ヒエラルキーを超越した連帯が発生。それを非モテ男子の見果てぬ夢と切り捨てるのは容易いが、リアルな世界がより混迷を増していく2024年の眼差しで見ると、極めて現代的なテーマに映ることだろう。

ジャンルも時代もゴッタ煮。様々なポップカルチャーからの引用/オマージュ

『ダンダダン』があらゆるポップカルチャーを引用/オマージュしていることは、これまでも多くの識者によって指摘されてきた。コミック(『ジョジョの奇妙な冒険』、『らんま1/2』)、特撮(『ウルトラマン』)、ゲーム(『ストリートファイターII』)、都市伝説(ターボばあちゃん、カシマさん)と、その参照元も多種多様である。

山代監督は、このゴチャ混ぜ感が『映像研には手を出すな!』にも通じるものがあるとコメント。『映像研には手を出すな!』がchelmico、『ダンダダン』がCreepy Nutsと、サンプリングを主戦場とするヒップホップ・アーティストを主題歌に起用していることも共通している。手法がサンプリング的であることに、作り手はかなり自覚的だったに違いない。

妖怪や宇宙人をシルエットで表現するサイケデリックなOPタイトルが、完全に『ウルトラマン』オマージュであることにも、それは顕著だ。山代監督曰く「初期の円谷プロ感覚」…『ウルトラQ』(1966年)や『怪奇大作戦』(1968年〜1969年)のようなテイストが、映像表現として息づいている。

さらに山代監督は、コメディ演出の参考として『木更津キャッツアイ』(2001年)や『タイガー&ドラゴン』(2005年)などの宮藤官九郎ドラマを挙げている。アクの強いキャラクターたちが丁々発止のやりとりをする“あの感じ”は、モモ+オカルン+星子+愛羅が食卓を囲んで繰り広げる爆裂トークと、確かによく似ている。

制作を手がけているサイエンスSARUは、自由奔放で強烈な映像表現を得意とするアニメーションスタジオ。もともとのお家芸に、60年代の円谷プロ作品とゼロ年代のクドカン作品を掛け合わせることで、ワンランク上のハチャメチャ感を獲得した。

「腐ったミカン」(©『金八先生』)や「⚫︎⚫︎でしょうが!」(©『北の国から』)という言い回しには80年代テイストが濃厚。おまけに、ところどころで90年代ネタを隠し味として効かせている。トンネルの前で恐怖に震えるオカルンが、自らを奮い立たせるために歌うのは、なぜか観月ありさの「TOO SHY SHY BOY!」(1992年)だし、バルタン星人そっくりの敵キャラが歌うのは、「24時間、戦えますか〜」でお馴染み「勇気のしるし ~リゲインのテーマ~」(1989年)だ。

Z世代、アルファ世代は100%置いてきぼり。でも、分かる人だけ分かればいい。この感覚こそが、サンプリング・カルチャーの面目躍如。ジャンルレスなミクスチャー作品『ダンダダン』は、その引用元も時代レスなのだ。

高倉健を参照することで、男性性を再定義する

『ダンダダン』は、モモがカレシにふられるシーンから始まる。コイツが、「金貨してくねぇんなら、今日のデートはなしな。ま、いい加減やらしてくれるんならいいぜ。ラブホ代はそっち持ちで」と最低発言をカマし、挙げ句の果てには暴力もふるう最低男。明らかに有害な男らしさ(トキシック・マスキュリニティ)の表象だ。それでもモモが惚れていたのは、男の中の男と尊敬してやまない高倉健に顔が似ているからだった。

思えば、高倉健という稀代のスターが演じ続けてきたのは、恋愛には疎いが義理人情には熱い不器用男。そして高倉健と同姓同名のオカルンは、確実にそのスピリットを受け継いだ役柄といえる。彼はモモに対して恋慕ではなく友情を選択し、グイグイくる愛羅も相手にしない。オカルンはオタク特有の“性”春こじらせ系ではなく、大切な人を自分の力で守ろうとする超硬派。ケン・タカクラ道の免許皆伝者なのである。

しかもオカルンは、ターボババアにイチモツ(この言い方、どぶろっくみたいだな…)を奪われて、男性性を喪失。ターボババアとの戦いによってなんとかイチモツを取り戻すも、今度はタマを2つとも失ってしまう始末。強制的に去勢されたことで、逆にケン・タカクラ的なスピリットを宿すことができた、とも読み取れる。かつての銀幕スターを参照することで、本作は男性性を新しく定義する試みがなされている。

『ダンダダン』の基本構造は、世界中に散らばった7つの玉を孫悟空たちが追い求める『ドラゴンボール』みたいに、オカルンが2つの金玉を追い求める物語だ(漫画版ではすでにその後が描かれているが、この稿では触れないものとする)。それはすなわち、男性性の回復への旅。その行方は、今後のアニメ版の注目ポイントになるはずだ。

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©龍幸伸/集英社・ダンダダン製作委員会

ジャンルレスにポップカルチャーを横断するこの作品は、「異文化への理解」、「男性性の再定義」と、非常に現代的で普遍的なテーマも扱っている。その射程の広さが、『ダンダダン』の魅力と言えるだろう。


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