「怖くて涙が止まらなくなった」松岡修造が語るデビスカップならではの“重圧”と、だからこその“面白さ”|デビスカップ2025 2回戦 日本 vs. ドイツ
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「怖くて涙が止まらなくなった」松岡修造が語るデビスカップならではの“重圧”と、だからこその“面白さ”|デビスカップ2025 2回戦 日本 vs. ドイツ

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U-NEXTでは、9月12日(金)と13日(土)に有明コロシアムで行われる男子テニス国別対抗戦『デビスカップ ファイナル予選2回戦 日本 vs. ドイツ』を独占配信する。

現役時代は代表の一員として戦い、現在は監督としてチームを率いる添田豪。誰よりも熱く日本テニス界を見つめ、盛り上げ続けてきた解説の松岡修造。

鍋島昭茂アナウンサーを聞き手に、二人の言葉から、国を背負ってコートに立つ意味やデビスカップならではの見どころ、日本代表選手それぞれの魅力を紐解いていく。

※この対談の収録は、錦織圭選手の欠場が発表(代わって坂本怜選手が選出)された2025年9月8日より前に行われたものです


──まずお二方にとって、デビスカップとはどのような大会でしたか?添田さんからお願いします。

添田:僕にとっては一番緊張した大会で、ある意味好きでしたね。個人の大会だと、どうしてもランキングや賞金がついてきます。ですが、デビスカップはそういったものを度外視して、とにかく日本のため、チームのため、そして自分のためだけに戦う。すごく純粋な気持ちでプレーできた大会でした。

──振り返ると、添田さんはいつも2勝2敗で迎える最終戦(第5ラバー)を戦っているイメージがあります。常にプレッシャーがかかる試合をされていましたよね。

添田:そうなんですよ。ちょうど錦織と同じチームだったので、そういう役回りが巡ってきてしまって(笑)。

──当時、あの立場にいたご自身のことを、今振り返ってどう感じますか?

添田:今となってはですが、人生の中でなかなか味わえない緊張感でした。いい経験でしたし、あれほど緊張する場面は今後あるのかな、というくらいの瞬間でしたね。

松岡:なぜ、あれほどのプレッシャーの中で強くいられたのですか?

添田:いや、強くないですよ。2勝2敗で回ってきた時は、1勝3敗なんです(笑)。でも確かに、自分の力は発揮できたな、とは思っていました。もともと団体戦はインターハイの頃から好きだったので、集中しやすかったんです。自分を追い込んで力を発揮するタイプだったので、そういった意味では力が出しやすい大会でした。

松岡:僕がジュニアの強化を始めた最初期が、ちょうど添田選手の世代だったんです。チーム力というものを低年齢から作り上げていきたいという軸があったのですが、当時の添田選手は錦織選手と共にチームのトップにいた。どんな気持ちで戦っていたのかなって。

添田:いや、でも…やりにくかったです(笑)

松岡:でしょ!? それはそうですよね。

添田:彼に注目が集まりますし、日本が負けてはいけないという変なプレッシャーもありました。一度、彼とダブルスを組んだこともあるのですが、考えなくてもいいことまで考えてしまう。「彼と組んで負けるわけにはいかない」とか。それに、2勝2敗で回ってくる局面が多かったのも、錦織がつないでくれたからこそ、というケースが多かったので。

添田豪

──私の中では「2勝2敗の時にコートに立つ日本のヒーロー」というイメージです。

松岡:だからこそ、錦織選手との今の関係性が大きく作られているんだなと思います。一緒にプレーしてきたからこそですね。

添田:そうですね。

松岡:監督として「出てほしい」と言って、錦織選手がそれに応える。普通はなかなかそうはいかないですよ。そこの信頼関係がすごいと思います。

──松岡さんのデビスカップデビューは1987年の中国戦。覚えていますか?

松岡:ここで、はっきりさせなければいけないことがあります。皆さんは僕にメンタルが強いとか、一生懸命というイメージがあるかもしれませんが、デビスカップを語らせたら、僕がどれだけ弱い男かわかりますよ。これは本当なんです。

僕はツアーを回りながら、グランドスラム4大会と、日本で行われる国際大会、そしてこのデビスカップだけを軸に考えていました。だから、デビスカップは僕にとって最も大事な大会だった。でも、勝てなかったんです。試合前、マネージャーも含めてチームでいると、怖くて涙が止まらなくなる。それだけ懸けていたんです。

当時、僕はナンバーワンで、アジアの中ではランキングも上でしたから、勝って当たり前だと思われていました。そのプレッシャーで、30kgもの重りを付けているかのように体が硬くなって、別人になってしまった。でも、だからこそ、ものすごく失礼な言い方ですが、負けたにもかかわらず、めちゃくちゃ良い記憶として残っています。

──ホーム&アウェー方式ですが、ホームで戦う時とアウェーで戦う時とでは、選手の気持ちも違いますか?

添田:全然違います。

──添田さんはどちらが好きでしたか?

添田:僕はホームが好きですね。ただ、やりやすさで言えばアウェーです。でも、やはり「勝てる」という気持ちになれるのはホームですね。

──松岡さんはいかがですか?

松岡:それはもう、ホームです。でも、そこで勝っていれば良かったのですが…。以前、鹿児島でフィリピン戦があったんです。ランキングで言えば800位くらいの、絶対に勝つべき相手でした。ただ、ジュニアの頃から知っている選手で、上手かったんです。それで僕、初戦で負けるんですよ。

その時の翌日の新聞、一般紙ですよ。「松岡、期待裏切る」と、ものすごく大きく書かれて。いや、でもその通りなんです。

──そうだったんですか。

松岡:はい。むちゃくちゃ裏切りました。会場は超満員でしたし、僕自身の調子も絶対に良かった。その状況でなぜ勝てなかったのかと思うと、やはりデビスカップのプレッシャーや怖さによって、どれだけプレーができなくなるか、ということなんです。それを僕は身をもって知っている。にもかかわらず、デビスカップの解説では、本当に偉そうなことばかり言っています(笑)。

松岡:選手の気持ちを考えると、僕も普通のプレーの2、3割しかできなかったことが多かった。でも、それがデビスカップなんです。だから面白い。

松岡修造

──それでは、添田監督の口から今回の日本代表メンバーをご紹介ください。

添田:はい。錦織圭、望月慎太郎、西岡良仁、綿貫陽介、そして柚木武。このメンバーでいきたいと思います。

※この対談の収録は、錦織圭選手の欠場が発表(代わって坂本怜選手が選出)された2025年9月8日より前に行われたものです

──松岡さん、今のメンバー発表を聞いて、率直な感想はいかがですか?

松岡:まず嬉しいのは、錦織圭がいることです。怪我もあって自分に集中したい時期だと思うのですが、それでもこのデビスカップに出場する。それにはいくつかの理由があると思います。もちろん、国のため。そして、彼は後輩を育てたいという思いも持っている。でも、本当の意味で「強い錦織圭」が帰ってくるためには、デビスカップが必要だと彼自身が思っているはずです。

デビスカップは普通の試合ではありません。以前のイギリス戦で、最後のポイントがかかった時の錦織のテニスは、はっきり言って良くなかった。本当に苦しんでいました。でも、彼は戦っていた。自分だけのためでなく、「日本」という思いが、彼をすごく強くするのではないでしょうか。そして、そこには西岡の存在もあったのだと感じます。

添田:後輩たちから「錦織さんに出てほしい」という思いがあり、それを彼にも伝えました。そういった後輩たちの気持ちも、彼が出場を決めた一因だと思います。西岡なんて、もし出ないって言ったら、怒り狂ってでも出させる。引きずり回してでも出させるというくらいだと思います(笑)。

二人はライバルというよりも、まず西岡の錦織に対するリスペクトが根底にあります。もちろん、すごい選手だという尊敬がある。その上で、「でも、今のエースは俺なんだ」という思いを彼は強く持っています。

それでも、日本チームとして戦う時、錦織がいないとチームの強さが出ないことを西岡は理解している。だから、ライバルという関係を超えて、お互いが本当にリスペクトし合っているんです。この二人が揃うと、相乗効果で両方が強くなる。イギリス戦の最後の試合も、西岡がものすごく応援していたので、近くで見ていて、錦織がエネルギーをもらっているなと感じました。

松岡:そういうチーム作りができているのは素晴らしいですね。デビスカップのチーム作りは本当に難しいんですよね。トップ選手を揃える国では、監督の言うことを聞かないといったニュースも様々ある中で、日本のトップ選手が出てくれるというのは、本当に嬉しいことです。

西岡良仁

添田:西岡は特にデビスカップにかける思いが強いんですよ。本当に。だから、彼を信頼しきっています。

──ある意味、今の日本代表は「西岡のチーム」という言い方もされますよね。

添田:彼がいて、出場してくれるからこそ、後輩たちがついてきてくれるんです。

松岡:私は西岡選手を小学校4年生の頃から見ていますが、彼のメンタルは浮き沈みがありました。監督として、彼と向き合う時にどのように伝えているのでしょうか?デビスカップでも彼の感情の波をうまくコントロールしているように見えますが、それは添田監督との信頼関係の証だと思います。

添田:何も伝えていないです(笑)。「寄り添っている」だけなんです。

松岡:寄り添う、ですか。

添田:僕が「こうしろ、ああしろ」とは言いません。彼は一人で考えて、戦術を組み立てて、何かを達成するのが得意な選手。調子が悪い時、彼は英語なのか日本語なのかわからない言葉で何かをブツブツ言っているのですが、僕はその隣にいて、少し水を飲むように促す、といった程度です。

彼は今エースという立場なので、「下から見られている」という責任感の方が強いのだと思います。そういった意識を持たせることが、彼を奮い立たせているのではないでしょうか。

松岡:彼はジュニアの合宿にわざわざ来てくれたり、オンラインでジュニア選手の質問にすべて答えてくれたりするんです。その内容が、めちゃくちゃ良い。そこでわかったのは、彼が「勝つ」ということに関して、誰よりも強い思いを持っている選手だということです。あれだけの体格で世界と渡り合えるのは、日本人として、メンタルサイドから見れば誇りに感じます。

望月慎太郎

松岡:望月選手の中では、アルカラスのような同世代の選手がいる中で、少なくともトップ30や20、あるいはトップ10にいなければいけないという思いはどこかにあるはずです。

──現状の望月選手を監督はどう見ていますか?

添田:この数年、近くで見ていて、理想を追い求める思いが強すぎたのかなと感じていました。ですが、今年に入ってすごく大人になりましたね。今ある現状を受け入れつつ、理想も追い求める。そのバランスがうまく取れるようになり、メンタル的に安定してきました。

そして、やるべきこと、つまりフィジカルを強化するという点について、今まではどこかすべてを受け入れていなかった部分があったのですが、「やらなければいけない」という思いが出てきている。そういった意味で、今年、彼はすごく変わりました。

彼が本当に自分のテニスができた時、ランキングは関係ありません。僕は「慎太郎ゾーン」と呼んでいるのですが、そのゾーンに入った時は、どこにボールが来るかわからないし、リターンからすべて攻撃される。この「慎太郎ゾーン」の時間を、今後どれだけ増やせるかが鍵です。大事な時にストンと落ちてしまうことがあるので、そこだけですね。それが体力的な部分や考え方というところにあるのだと思います。

綿貫陽介

──綿貫陽介選手は、この「添田ジャパン」の中で非常に重要な選手ですね。

添田:はい、彼はチームの核心を担う選手です。シングルスとダブルスの両方を頼りにしていますし、錦織、西岡の両エースをもうすぐ超えられるか、というところまで来ています。すごく期待していますし、彼自身もデビスカップに対する気持ちが強い。将来的にはエースになってほしいという思いはすごく強いです。

松岡:綿貫三兄弟、僕もジュニア時代からずっと見てきて、「もっといけるのに」という部分と、彼自身が「いや、僕はまだそこまで」と自信を持てていないような、少し弱い部分もある。でも、そこがちょっとずつ変わってきてると思うんです。監督としてはどのように接していますか?

添田:あまり期待をかけすぎると、彼は力を発揮しづらいタイプなんです。だから、少し「ジョーカー」的な感じで接しています。「お前がこの試合をかき乱す存在だ」とか、「盛り上げてくれ」と伝えると、すごく嬉しそうにプレーするんですよ。イギリス戦のダブルスなど、乗った時の彼を間近で見ていると、パートナーでさえ何をしてくるかわからない状況になる。それが僕の理想で、彼をそういう状態にさせてあげたいんです。

柚木武

──そして柚木武選手。196cmの長身でレフティというのは大きな武器ですが、先日のイギリス戦でのデビューをどう振り返りますか?

添田:よくやりましたね。初選出、デビュー戦であれだけのプレーができた。間違いなく硬くなるだろうと思っていました。相手はダブルスの実力者でしたが、自分の力を出し切りましたし、ああいう大舞台でも強いんだなと感じました。サービスもしっかりキープして、盛り上げるところは盛り上げて、すごく頼もしかったです。

実力もついてきましたし、コート外での意識も非常に高くなっているのを見ていたので、今回も選びたいと思いました。今、ダブルスのランキングも100位を切れるかどうかというところまで来ていて、それもすごいことなので、非常に期待している選手です。

(ダブルスの名手である)マクラクラン勉も、「柚木はどのくらいまでいけるの?」と聞いたら、「トップ10はいける」と。僕はダブルスがそこまで強くなかったので、彼に色々聞いていたのですが、彼が言うなら本当にそうなんだろうなと思いました。

松岡:僕は、彼は世界一になれると思っています。グランドスラムで優勝できる。ダブルスは本当にチャンスがあります。あの背とタッチと、あとは慣れ、経験ですね。そう考えれば、彼がグランドスラムで優勝したと言われても、僕は全く驚きません。そのくらいのテニスを持っています。

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