U-NEXTでは、9月12日(金)と13日(土)に有明コロシアムで行われる男子テニス国別対抗戦『デビスカップ ファイナル予選2回戦 日本 vs. ドイツ』を独占配信する。
現役時代は代表の一員として戦い、現在は監督としてチームを率いる添田豪。誰よりも熱く日本テニス界を見つめ、盛り上げ続けてきた解説の松岡修造。
鍋島昭茂アナウンサーを聞き手に、二人の言葉から、国を背負ってコートに立つ意味やデビスカップならではの見どころ、日本代表選手それぞれの魅力を紐解いていく。
──ドイツ戦は有明で開催されます。これは大きな要素ですね。
添田: 大きいですね。
──最近、日本チームに良い風が吹いているように感じます。
添田: そうですね。選手たちが勝ち続けてくれたおかげで、このような機会を得られています。しかも、ホームで勝利を重ねることができている。今の良い流れのまま、今回のドイツ戦も乗り切りたいです。
──ホームで勝利すれば、多くのファンと喜びを分かち合えますね。
松岡: 日本が強い状況で有明の舞台に立てる。もしドイツに勝つようなことがあれば、それはもう大ニュースですよ。チャンスなんです。このデビスカップという大会のすごさ、そして何が起きるのかという熱を、少しでも多くの人に伝えたいという思いは強いですね。
──ファンの方々に向けて、改めてデビスカップにおける日本の現在の立ち位置を説明させてください。この9月に行われるのは「Final 8」進出を懸けた“予選2回戦”で、7つの対戦が組まれています。勝者7か国と前年優勝国イタリアの計8か国が11月の「Final 8」へ進みます。松岡さん、その中に日本が入っていること自体が、本当にすごいことです。
松岡: いや、これはすごいことですし、ドイツに勝つというのがどれだけすごいことか。でも今回はチャンス、大チャンスですよ。
──添田監督は対戦相手であるドイツチームの現状を、監督はどのように分析していますか?
添田: まず、シングルスもさることながら、ダブルスが非常に強力です。
──ケビン・クラウィーツとティム・プッツのペアですね。
添田: はい。やはりダブルスが強い国は、国別対抗戦でも強さを発揮します。このペアの存在が、最も厄介だと感じています。
──このクラウィーツとプッツですが、現在の世界ランキングでそれぞれ12位と13位につけています。グランドスラムでも常に2週目に勝ち残ってくる、間違いなく世界トップクラスのペアです。
松岡: 彼らはデビスカップでも本当に強い。以前の対戦でも、相手を6-0で下しています。そうなると、ひとつの戦い方としては、シングルスで確実に勝利を固めようと。
添田: 正直なところ、ダブルス対ダブルスでは、今の日本の実力では彼らに勝つのは難しいと考えています。だからこそ、ダブルス選手にとって「何をしてくるか分からない」相手の方が怖い。その意味で、望月(慎太郎)と綿貫(陽介)を起用する選択肢があります。
私が相手のダブルス選手だったら、特に綿貫のように、プレーが大当たりするかもしれないし、逆に全くハマらないかもしれない、そういう予測不能な選手の方が怖い。だから、シングルスプレーヤーをダブルスに起用しようと。
松岡: 特にデビスカップのダブルスは、シングルス以上に何が起こるか分かりません。基本的にサービスが強ければある程度キープできるので、チャンスは必ず生まれます。
──競った展開に持ち込みやすい。
松岡: しかも舞台は日本です。ホームの応援を力に変えて、勢いに乗ってしまえば…。皆さんには、ダブルスという種目の重要性をぜひ知ってほしい。
本当に何が起きるか分からないのがダブルスです。特に、綿貫のような選手が一度リズムに乗ってしまったら、コーチが「そんなプレーをするなよ」と思うような型破りなショットが次々と決まり始めるかもしれない。そうなれば、相手は恐怖を感じますよ。ダブルスで相手が怖がってしまったら、本当に一気にレベルが下がるんです。それは日本にとってチャンスになるかもしれません。
──今回のドイツ戦で言えば、初日にシングルスが2試合、そして2日目の第1試合にダブルスが組まれています。この「第3ラバー(3試合目)」という試合順も、非常に大きいですね。
添田: めちゃくちゃ大きいです。
──初日を1勝1敗で終えるのか、2勝0敗なのか、あるいは0勝2敗なのか。状況は分かりませんが、監督としてもダブルスの位置づけは極めて重要になりますね。
添田: ものすごく重要ですね。シングルスの選手からすれば、ダブルスの結果次第で精神的な負担が全く変わってきます。あそこで勝ってくれるかどうかで、肩にかかる重圧が大きく違ってくる。だから、本当にダブルスは重要なんです。
松岡: そして、有明のお客さんはダブルスを見るのが好きなんです。応援の仕方も心得ている。だからこそ、選手二人がホームでより大きなエネルギーをもらえるチャンスがありますね。
──ドイツのシングルス陣に目を向けると、ランキング上位にはダニエル・アルトマイヤー(※)、ヤン=レナルト・ストルフ、ヤニック・ハンフマンといった選手がいますが、このあたりはどう見ていますか?
添田: この3人の中では、アルトマイヤーかストルフのどちらかが出場する可能性が高いと見ています。どちらが出てきても実力に大きな差はないと思っています。ランキングではアルトマイヤーが上ですが、一発の破壊力という点ではストルフが非常に強いです。相手監督がその時のコンディションを見て、どちらを起用してくるか、というところですね。
※この対談の収録後、アルトマイヤー選手の欠場が発表され、ユスティン・エンゲル選手が代わって招集されました
──松岡さん、ストルフはマクラクラン勉とダブルスを組み、2018年の全豪でベスト4に進出するなど実績があります。我々にも馴染み深い選手ですよね。
松岡: 長身で、ネットプレーに乗ってきた時の彼は本当に強い。真面目ながらも、プレーに波が激しいという印象はありますね。
彼らは、ボリス・ベッカーが登場してドイツのテニス界が一世を風靡した1988年、89年頃の栄光を少し知っている世代だと思います。だからこそ、自分たちが優勝国としてのプライドを背負わなければならない、という意識が選手の中にあるはずです。個人的には、アルトマイヤーという選手が鍵を握っていると思っていて、彼に2勝できれば、間違いなく日本が勝つと見ています。
綿貫のプレーですが、先日のシンシナティでの戦いを見ても、いやらしさがあまり感じられない気がしていて。そこに、ホームの応援、デビスカップという特殊な雰囲気、そして添田監督が作り上げたチームの力が加われば、いけると思うんです。
──添田さんが監督になってから、特に印象に残っていることはありますか?
添田: 一番悔しい思いをしたという意味では、デビスカップで敗れたアウェーのイスラエル戦ですね。
──現役時代よりも、監督になってからの方が悔しさは大きいですか?
添田: それもありますし、やはりあのアウェーの雰囲気はすごかった。その中で負けてしまった悔しさは、今でも鮮明に残っています。
──あの試合も、最終的なスコアは2勝3敗でした。本当に惜しい敗戦でしたね。
添田: ただ、あの経験があったからこそ、望月も強くなりました。選手みんなが、あの敗戦を乗り越えて今の舞台に立っています。もしかしたら、あの悔しさがなければ、今のこの場所にもいなかったのかもしれない、とさえ思います。
松岡:監督として試合を見守るというのは、どんな心境なのでしょうか。ご自身はプレーしているわけではないという中で、どんな気持ちになるのか。
添田: 選手に乗り移るような感覚です。一試合一試合、勝てば選手と同じように嬉しいですし、負けたイスラエル戦では、まるで自分が3敗したような感覚に陥りました。
「なぜあの時、ああいう声掛けができなかったんだ」とか、ものすごい後悔します。選手の時よりも強いですね。「もっとうまく選手の気持ちをコントロールしてあげられていれば」と、色々と考えました。
──しかし、「添田ジャパン」になってから敗れたのは、そのイスラエル戦だけです。
添田: だからこそ、余計に悔しいんですよね(笑)。アウェーでのあの敗戦が。勝ちたかった。
──その悔しさを乗り越え、レバノン、コロンビア、そしてイギリスと、現在3連勝中です。
松岡: デビスカップの監督を経験して、「監督とはこういうものだ」と感じたことはありますか?
添田: そうですね…やはり全体を見なければいけない、という点です。選手だけでなく、コーチ、トレーナー、ストリンガー、ドクター、マネージャーまで、チーム全員が良い雰囲気でなければ勝てないと痛感しています。誰か一人でもチームに協力的でない素振りを見せれば、すぐにその問題を解決して、全員を前向きにさせなければならない。
試合が始まる前までの準備段階こそが、監督の最も大事な役割だと考えています。チームワークをいかに高め、選手たちに良いエネルギーを持たせるか。それが監督の仕事なのだと。また、選手のプライベートコーチやトレーナーから、選手の今の状態を詳しく聞くことも欠かせません。彼らから情報を得ることで、初めて選手と向き合うことができる。そこは一番大事にしている部分です。
松岡: 日本のテニス界にとって大事なこの時期に、添田君が監督になってくれたことは、本当に大きな意味があると思います。(元デビスカップ監督の)土橋さんや坂井さんも、間違いなく添田しかいない、という思いだったはずです。彼は、僕が見ているジュニアの世代まで、すべてのカテゴリーに目を配り、ナショナルチームでもアドバイスをくれる。日本のテニス全体を見てくれているんです。
だからこそ、このドイツ戦はめちゃくちゃ大きい。選手たちにとってはもちろん、今まさに世界を目指している日本のジュニアたちにとっても、今後の日本テニスが世界でどう戦っていくかを示す、重要な一戦になります。
──それでは最後に、松岡さんから日本チームへエールをお願いします。
松岡: 今日、話を聞いていて思ったのは「添田監督を信じろ」ということです。彼はすべてを見てくれている。だから選手たちは、100%監督に身を委ねていい。勝ち負けを考えるのではなく、思い切って自分のプレーをすればいい。
そして信じるためには、ファンも一緒に戦うことです。試合を見ながら、チームと思いを共有できた時、勝利の瞬間の本当の感動を、皆さんも得ることができる。それがチームの力になるはずです。
──そして添田監督。ドイツ戦に向けた力強い抱負をお願いします。
添田: これほどのチャンスは滅多にありません。チーム一丸となって、絶対に勝ちに行きます。
ファンの皆さんにも一つ、見てほしい点があります。それは、選手とスタッフの「目」です。個人戦の時とは、明らかに目つきが違います。スタッフも含め、全員が本当に真剣に応援しています。ですから、会場の皆さんにも、同じくらい真剣に応援してほしい。U-NEXTで観戦している方々も、画面越しに真剣に見ていただければ、皆さんもチームの一員になれるはずです。ぜひ、応援をよろしくお願いします。