8月6日(日)から毎週日曜夜10時からスタートした『何曜日に生まれたの』(ABCテレビ・テレビ朝日系全国ネット)。ある事件を機に、10年間引きこもり人生を送って来た女性の物語を描いたドラマで、手掛けたのは『101回目のプロポーズ』(1991年)、『高校教師』(1993年)、『ひとつ屋根の下』(1993年)など日本のドラマ史に残る数々の傑作を生みだしてきた脚本家・野島伸司。5年ぶりに地上波の連続ドラマを書き下ろした野島氏に、本作誕生の背景や、作品に込めた思いをうかがいました。
━━今回の物語は、コロナ禍の影響で理想のキャンパスライフを送ることができなかった若者がきっかけだったそうですね。
野島:そうですね。昔からいわゆる引きこもりの話はありましたが、それは家庭内暴力的なものでした。そうでなくて、このコロナ禍の特殊な世界で、青春時代に行動規制を掛けられてキラキラとした生活が送れなかった若者たちのことを書いてみたいと思ったのが最初ですね。
━━そういう思いがある中で、主人公である黒目すいのキャラクターづくりで意識されたことはありますか?
野島:すいは引きこもって10年の間、基本的に、父親と宅配の人にしか会ってないという設定なんです。だから、コミ障であるとか人と仲良く話すってどういうことか…という、そうならざるを得なかったという背景的なところから入ろうと思いました。
━━書き始められると早いとお聞きしましたが、構想からどのぐらいで脚本を書かれたのでしょう?
野島:コロナ禍の時からぼんやりと題材のことは考えてました。それで、仕事の話が決まって、キャストが決まるまでギリギリ待って、書き出したら2ヵ月ぐらいでした。でも、最終回まで書くと、あれっ、こういう話を書こうと思ったんだっけという感覚になる(笑)。引きこもりの女の子が社会復帰するというぼんやりとしたテーマがあって書き進めていくんですけど、書きながら楽しい方に行こうという思いがわいてきて、具体的な形になっていく時は、もう1つ2つアイデアが乗っかってますね。
━━主人公のすいを演じる飯豊まりえさんとは6年ぶりのタッグになりますが、どんな女優さんというイメージを抱いてらっしゃいますか?
野島:今回のヒロインはみずみずしい感じのキャストにするとしたら、誰だろうという話になって。僕は、昔、飯豊さんが高校生ぐらいの時、『アルジャーノンに花束を』で初めてお仕事をしていて。その時から、彼女はとてもプレーンで、芝居を押し付けるタイプでもなく、かといってドキュメンタリーっぽくもない。ちょうどバランスがいいと思っていて。作家や映像監督が使いたくなるタイプの女優さんではないかなと思います。
━━陣内孝則さん演じるすいの父親・黒目丈治や、溝端淳平さん演じる人気ラノベ小説家・公文竜炎など個性的なキャラクター揃いですが、とくに、野島さんがこだわって作ったキャラクターはありますか?
野島:溝端君が演じる公文竜炎という役ですね。彼は顔出しNGなど謎に満ち溢れたキャラクターですが、僕も物書きとして実は隠している部分がある。また、物書きの性みたいなところで興味深いことがあると、デリカシーなく相手を質問攻めにしてしまうようなところもあって。僕自身が公文と重なる部分はあると思います。
━━本作では、曜日占いがモチーフになっていますが、取り入れようと思ったのはなぜでしょうか?
野島:東南アジアを旅行している時に、よく現地の人から「何曜日生まれ?」と聞かれることがあったんです。日本の場合は血液型占いや星座占いが普通だけど、タイやミャンマーでは曜日占いがポピュラーなんだそうです。現地の人たちは生まれた曜日をみんな知っていて、どんな運勢なのか、結婚相手や友達関係の相性など細部にわたって知っている。それが脳裏にあって、たまたま今回、タイトルになったという感覚ですね。
━━タイトルの『何曜日に生まれたの』は、本作のキーフレーズになっていますが、タイトル自体にはどんな思いを込められたのですか?
野島:思いというよりも、タイトルをどういったものにしようかなと考えた時に、主人公のすいと同じように、僕も職業的に引きこもりのようなものなので、ずっとこもって書いていると、『あれ、今日、何曜日なんだっけ?』と思うことがよくあるんです。そういったことがふわっとあって、後づけで構成していった気がします。また、タイトルのことをプロデューサーたちと話している時に、“曜日占い”の話になって、おじさん世代も自分の曜日を知らないとその場でググり始めて盛り上がったので、若い子たちならもっと盛り上がるんじゃないか…という話をしていた覚えがあります。
━━近年は、ドラマだけでなく、漫画やアニメの原案や脚本を担当されていますが、今回のドラマに影響していることはありますか?
野島:そうですね。僕も二次元のほうにいってみて、自分の感覚はそっちのほうがフィットする気がして。今回のドラマも陣内さんが漫画家だったり、溝端君がラノベ作家だったりと、その辺は僕がちょっと二次元を引きずりながら、実写の脚本を書いたという感覚です。二次元の中二病感は今回、結構色濃く描かれているので、普段、実写ドラマを観ないアニメファンや漫画ファンが観てもシンクロ率は高いと思うので、ドラマを毛嫌いしないで覗いてほしいなと思います。
━━最近、オンエア前にあまり内容を知らせない映画やドラマが増えています。このドラマは引きこもり女性が主人公の物語ですが、野島さんのオリジナル作品で、サスペンスありのラブストーリー要素にキャラクターもクセ者揃いで謎めいている、一筋縄ではいかない作品だと言われていますね。
野島:このドラマに関して言えば、別にもったいつけているわけではなくて、本当にひと言で何のドラマですと言いづらいんです。僕自身ですら、カテゴリーで言うと「何だろう?」みたいな感覚なんです。
━━テーマに向かって書いていても、いろんなアイデアが乗っかってくるとおっしゃっていましたね。
野島:そうですね。だから、前の回まで見ていたものとは違ってくる瞬間が何回かあって、ジャンルそのものも踏み越えて変わってくるから、よけいにこの作品はどのジャンルだと言いにくいかも。考察するのが好きな人は、すいの10年前に何があったのかに注目するかもしれませんが、あるところで話が完全に変わってくるんです。ひと言で説明できたほうが、いろんな人に見てもらえる入り口は広がると思うんですが、言えないんですよ(笑)。
━━進化していくドラマということでいいんでしょうか?
野島:そうですね。陣内さんと飯豊さんの2人の話の部分だけ見ると、いわゆるホームドラマ的な見方はできるけど、でも、何とも言えない。誰を視点に据えて見るかで全然違ってくる。決してもったいつけてるわけじゃなくて、いろんな見方ができる多層的なドラマなんです。
━━本作は、地上波での放送だけでなく、U-NEXTなどで動画配信もされます。脚本家として、ご自身の作品が配信されていくことに関してどのようなお考えでしょう?
野島:TV局の人たちがいるところで言うことではないと思いますが、でも、今後ますますリアルタイム視聴は厳しくなっていくと思います。実は僕自身もほとんどテレビは見ない。いわゆる配信を見ていて、地上波は1つのチャンネルでしかない感覚があるんです。そして、作家として配信を考えると、自分の作品が配信に乗れば、深夜帯であろうがゴールデン帯であろうが時間に関係なく、いろんな人に見てもらえる。そして、その作品はずっと残っていくから、再放送やDVDがなければ見られなかったかつての時代よりもずっといい。そういう部分では作り手にとってはすごくいい時代になったな。よりいろんな人に見てもらえて、海外にも広がるという意味でも、作り手にとっては可能性が広がったと思います。
━━本作もそういう意味では、地上波だけでなく配信によって大きく広がる作品になりそうです。野島ワールドを楽しみにしている方たちにメッセージをお願いします。
野島:月9ドラマの真逆といったらおかしいけど、このドラマはあの時代のような華やかでキラキラしたキャンパスライフを送ることできなかったコロナ禍の若い世代に向けて書きました。一番素晴らしい世代を制約されてしまった人たちに、物書きである僕が一種のラブレターを書いたようのものです。この狭い対象への強い思いが派生して、他の人も見てくれたらとても嬉しく思います。
プロフィール
野島伸司
脚本家。脚本家・伴一彦に師事し、『時には母のない子のように』で第2回フジテレビヤングシナリオ大賞を受賞し、メジャーデビューを果たす。
フジテレビ系『君が嘘をついた』で連続テレビドラマの脚本家としてデビュー以降、数々のトレンディドラマを手掛けた。代表作に『愛しあってるかい!』『101回目のプロポーズ』『ひとつ屋根の下』『薔薇のない花屋』や、企画担当として『家なき子』などがある。近年は、詩・作詞、絵本、小説、漫画の分野にも活動範囲を広げている。
主演の飯豊まりえさんはじめ、溝端淳平さん、早見あかりさん、シシド・カフカさん、陣内孝則さんら主要キャスト5名と、脚本を手掛けた野島伸司さんが登壇。
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