“対照的”ともいえる二人の優勝争い、その行方は?いよいよ決勝ラウンド、注目のポイントを石井忍が解説|AIG女子オープン(全英女子)
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“対照的”ともいえる二人の優勝争い、その行方は?いよいよ決勝ラウンド、注目のポイントを石井忍が解説|AIG女子オープン(全英女子)

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今季メジャー最終戦となる『2025 AIG女子オープン(全英女子)』(7月31日〜)は予選ラウンドを終え、単独首位には通算11アンダーで山下美夢有が、2位には通算8アンダーで竹田麗央がつけている。また、初日91位と出遅れた畑岡奈紗は2日目に調子を上げ、10位に急浮上で決勝ラウンドへ進んだ。

日本人選手たちの活躍が光る中、大会残り2日間の注目ポイントはどこになるのか。ゴルフインストラクターで解説者の石井忍に、山下、竹田、畑岡のここまでの印象や好調の理由を訊いた。

石井忍

2日目に猛チャージで予選突破、畑岡は「持ち味のショートゲームの上手さが光っている」

──全英女子オープン、日本人選手の活躍が本当に素晴らしいですね。17名の日本人選手が参加し、9名が予選を通過しました。

石井:本当に頼もしいな、という一言に尽きますね。国内ツアーの年間ポイントレースでは山下選手が2022年・23年と連覇し、2024年は竹田選手が女王の座に輝きました。日本ツアーを牽引してきた二人が、いま全英でも首位争いを繰り広げています。やはり今の二人は一つ抜けている、という印象ですね。

全体で見ると、通年でアメリカツアーを戦っている選手と、今回スポットで参戦した選手とで少し差が出たかなという印象はありますが、それだけ時差や環境の変化に対応するのが難しいということでしょう。改めて海外で戦うことの難しさも感じました。

──その中で決勝ラウンドに進んだ注目選手について伺います。まずは、トップ10圏内に浮上してきた畑岡奈紗選手からお願いします。

石井:畑岡選手は、日本人選手の中でも最も早くからアメリカツアーに挑戦しています。その豊富な経験値は、残りの2日間で必ず生きてくるはずです。

──今シーズンは少し苦しんでいる印象もありました。

石井:今季はなかなかコンディションが上がらず、特にメジャー大会では苦戦していました。全米女子オープンは予選落ち、メジャーでのシーズン最高位が全米女子プロ選手権の36位タイでした。だからこそ、今大会に懸ける想いは強いでしょうし、シーズンベスト、あるいはそれ以上の成績を期待してもいいのではないでしょうか。

──復調の要因はどこにあると見ていますか?

石井:ショットの切れ味、特にロングショットの正確性に加えて、彼女の持ち味であるショートゲームの上手さが光っています。グリーン周りのアプローチは本当に巧みです。

一方で、長年の課題としてパッティングに悩んできた部分がありました。ですが予選ラウンドの映像を見ると、そのパッティングがかなり改善されているように見えます。強気のパットだけではなく、風やグリーンの傾斜をしっかり読み切って、繊細に寄せて入れていく。そういった部分が噛み合ってきた印象です。この感覚は決勝ラウンドでも大きな武器になるでしょう。

畑岡奈紗

──決勝ラウンドでは、畑岡選手のどんなプレーに注目したいですか?

石井:現在トップとは9打差ありますが、下から追いかける選手はアクセルを踏んでいきますし、上位の選手は少し守りに入る傾向があるので、差は意外と詰まるものです。畑岡選手が本来持っている爆発力と、今回手応えを感じているパッティングが噛み合えば、必ず上位に顔を出してくるはずです。

竹田の魅力は“攻撃力”「だからこそ、この二人の優勝争いは面白い」

──続いて、現在単独2位につけている竹田麗央選手です。素晴らしいプレーが続いていますね。

石井:竹田選手の爆発力は本当にすごいですが、それに加えて安定感も出てきました。見ていて非常に安心感があります。今季すでに優勝を経験している自信、そしてツアーメンバーになる前に優勝したTOTOジャパンクラシックも含めると、着実に実績を積み重ねています。メジャーの舞台でも、全米女子オープンで2位に入りました。そういった経験の一つひとつが彼女をアップデートさせ、とてつもなく強くなっているという印象です。

──今大会も実力をいかんなく発揮している、と。

石井:はい。初日、2日目と山下選手と一緒にプレーしましたが、2人がどんどんスコアを伸ばしていく姿は、日本のゴルフファンにとって本当に心強く、誇らしかったと思います。初日の9番ホールでダブルボギーを叩き、同ホールでイーグルを奪った山下選手と一気に差が開きましたが、そこから4つのバーディーを奪い返して上位に戻ってきました。そして昨日も、パー5でボギーを叩いた後に、9番のパー5でチップインイーグル。勝負強さを見せつけましたね。

──竹田選手の魅力は、やはりその攻撃的なプレースタイルでしょうか。

石井:持ち味は、なんと言っても飛距離性能の高いロングショットです。ドライバーの平均飛距離は270ヤードほど。その飛距離を武器にしつつ、難しいロングアイアンも巧みに操り、パー5で着実にスコアを稼いでいく。バーディーも非常に多い選手です。

その圧倒的な攻撃力は、ディフェンス力の高い山下選手とはまさに真逆。だからこそ、この2人の優勝争いは本当に面白い。プレースタイルの色味が全く違う2人の戦いは、絶対に見た方がいいですね。

──スイングも非常にダイナミックに見えます。

石井:竹田選手のスイングは、パワーはもちろんですが、特筆すべきはその柔軟性です。上半身をしっかりと捻転させ、そこから踏み込んでいく。インパクトからフォローにかけての右足の使い方が非常に力強く、ジュニア選手のような体の柔らかさを感じさせます。

地面の力を使う際、縦方向に蹴り上げることでパワーを生み出す選手もいますが、彼女の場合は体の回転を重視しています。そのため、正面から見ると軸がほとんどブレません。このしなやかで華麗なスイングは、決勝ラウンドでもぜひ注目してほしいですね。

竹田麗央

「まさに鉄壁」の山下、安定感抜群のゴルフで初優勝なるか

──そして、現在単独トップを走る山下美夢有選手です。その強さはどこにあるのでしょうか。

石井:山下選手といえば、とにかく“安定感”です。2022年、23年と2年連続で日本ツアーの年間女王に輝いていることからも、その力は証明済みです。

彼女の強さは、竹田選手とは対照的な“ディフェンス力”の高さにあります。特にグリーンを外した時のリカバリー能力を示すスクランブル率や、バンカーセーブ率がトップクラス。まさに鉄壁のゴルフです。ボギーフリーのラウンド数も1位ですからね。攻撃の竹田選手と、守りの山下選手。この構図がどう決勝ラウンドに作用していくか、本当に楽しみです。

──今大会も、その安定感が際立っていますね。

石井:ボギーを打たない安定感をベースにしながら、しっかりバーディーも狙っていくスタイルです。予選ラウンドでもいくつかピンチはありましたが、1ピン強の難しいパーパットも確実に沈めていました。パッティングのコンディションはかなり良さそうなので、決勝ラウンドでもその強さを存分に発揮するでしょう。

──トップとはいえ、3打差というリードをどう見ていますか?

石井:3打差というのは、決して安全圏ではありません。この全英女子オープンの難しいセッティングでは、1ホールで一気にひっくり返ることもあります。初日に竹田選手がダブルボギー、山下選手がイーグルで、1ホールで4打も差がついたのが良い例です。

それに、リンクスは「一日に四季がある」と言われるほど天候が読めません。初日は晴天から一転、突風と雨に見舞われましたが、決勝ラウンドこそ強風や雨が最大の敵になるはずです。

ですから、山下選手自身は3ストロークのリードは考えず、もう一度ゼロからリセットするくらいの気持ちで決勝ラウンドに臨むと思います。トップにいるがゆえの難しさは、彼女も知り尽くしているはずです。

──山下選手と竹田選手、プレースタイルは対照的ですが、スイングに共通点はありますか?

石井:二人とも、体の軸をキープする能力が非常に高いです。スイング中に軸を傾けて力を出すタイプではなく、体の中心で回転するようなスイング。これはプレッシャーに非常に強いスイングと言えます。これからどんどん増すであろう“優勝争いのプレッシャー”に対しても、強さを発揮するのではないでしょうか。

山下美夢有

──百戦錬磨の山下選手ですが、海外メジャーでの優勝争いとなると、またプレッシャーも違うものでしょうか。

石井:彼女ほどのキャリアがあっても、メジャーでの優勝争いは特別なものです。そのプレッシャーの中で、彼女がどういうボールを打ち、どういう表情でプレーするのかは非常に興味深いですね。

去年のセント・アンドリュース(全英女子)で、山下選手も竹田選手も予選落ちを喫しているんです。その悔しさもあるでしょうし、山下選手はパリ五輪で流した悔し涙が、今も原動力になっているのではないでしょうか。あの経験が彼女をさらに強くしたと感じます。そして今回はそれらの悔しさを晴らす、最高のチャンスの一つともいえるでしょう。

──予選ラウンドから4日間、その山下選手と竹田選手が同じ組で回るというのは、どう影響しそうですか?

石井:とてもやりやすいと思いますよ。以前、ダブルスの大会でペアを組んだこともありますし、相性もいいはずです。

もちろん、どちらかがつまずくとやりづらさは出るかもしれませんが、二人とも百戦錬磨のプロ。お互いの実力を認め合っているでしょうし、知らない選手と回るよりは、はるかに気は楽だと思います。自分のプレーに集中すれば、どちらかが優勝する。そのくらいの気持ちで臨めるのではないでしょうか。

日本人選手の脅威は誰に?大注目のルーキーと絶対女王の存在

──最後に、この二人の優勝争いに絡んでくる可能性のある、海外の注目選手を教えてください。

石井:正直なところ、上位にいる選手たちもトップとは7打差以上開いているので、簡単ではないでしょう。ただ、怖い存在を挙げるとすれば、10位タイグループにいる選手たちです。

まず、先週の大会でLPGAツアーデビューを果たし、いきなり優勝してしまったロッティ・ウォード(イングランド)。アマチュア時代にエビアン選手権で優勝争いをするなど実績は十分で、今大会もじわじわとスコアを上げてきているので、爆発する可能性はあります。

そして、同じく10位タイにいるネリー・コルダ(アメリカ)ですね。彼女たちがスコアを伸ばしてボードの上位に名前が出てくると、トップを走る選手たちも「来たな」と感じるはずです。

ネリー・コルダ 3

ほかに追い上げてくると怖いのは、タイのパジャレー・アナナルカルン、そして韓国のキム・アリムとキム・セヨンあたりでしょう。実力者ぞろいですから、10位前後からでも一気に来る可能性があります。力のある選手たちが追い上げてくる展開になれば、決勝ラウンドはさらに面白くなってきますね。

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