『アンチヒーロー』最終回。「共に、地獄に堕ちましょう」稀に見る傑作、その結末は?
長谷川博己が「殺人犯をも無罪にする“アンチ“な弁護士」を演じるTBS日曜劇場『アンチヒーロー』最終回をレビュー
長谷川博己が「殺人犯をも無罪にする“アンチ”な弁護士」を演じるTBS日曜劇場『アンチヒーロー』が、14日にスタートした。初回から視聴者を翻弄する衝撃展開が連続、それでもずっしりと存在感を示す長谷川博己の演技に強烈な反響が集まっている。
本作は、『VIVANT』のスタッフが結集したこと、放送前に内容に明かされなかったこと(長谷川さん演じる弁護士の名前のみ解禁)でも話題を集めていたが、放送直後から早くも考察合戦がスタートしている。二転三転する法廷での戦いやラスト1分の急展開の衝撃はもちろん、初回視聴率11.5%が『VIVANT』と同じだったこともあり、早くも今期最大の注目作との呼び声もある。
※以下ネタバレを含む表現があります。ご注意ください。
冒頭、長谷川博己演じる弁護士・明墨が拘置所で殺人事件の被告人に語りかける。
「殺人犯として生きると言うことは、どういうことだと思いますか?
『人間のクズ』『死んで償え』。有罪が確定した瞬間、見ず知らずの他人が、何千何万というナイフであなたの心を平然と刺していくんです。その矛先はあなただけではありませんよ。家族、恋人、友人、同僚、あなたの人生に関わったすべての人が“殺人犯の~”という称号を強制的に与えられるんです。
法律というルールの中では許されても、リアルな世界では一度罪を犯した人間を赦す気なんかないんです。どんなに心を入れ替えたとしても、自分の居場所なんかないんです。幸せになんかなれるわけないんです。殺人犯になった時点で、あなたの人生は終わります」。
そして「私があなたを、無罪にしてさしあげます」と宣言する。
接見室ながら被告人の顔は見えず、ひとりで話す明墨の言葉は、まるでモニター越しの視聴者に語りかけるような言霊を帯びている。約3分半の流暢ながら不穏な弁舌。それは、一度の罪で人生を奪われる現代社会の暗さを突きつけてくるかのようで、心をざわざわとかき立てていく。
会社の社長を殺害したとして起訴された被告人・緋山啓太(岩田剛典)の弁護を担当することになった明墨。検察は4つもの証拠を提示して有罪を勝ち取ることに自信を見せており、弁護チームに加わった若手弁護士・赤峰(北村匠海)は証拠の多さに緋山の犯行を確信する。しかし決定的な証拠がないからこそ、1つ1つの証拠はとても弱いと自白しているようなもので、明墨は「我々弁護士は、検察が出してくる証拠をただ、握りつぶせばいいんだ」と不敵に笑う。
明墨は、同僚弁護士・紫ノ宮(堀田真由)、赤峰とともに、宣言通り1つずつ証拠を潰していく。そのやり方は、被害者の5歳の息子の曖昧な記憶を利用したり、検察の証人である目撃者・尾形(一ノ瀬ワタル)の聴覚障害を見抜き証言の妥当性を崩すなど、倫理的にも法的にもグレーなものばかりだ。だが、一方の検察も尾形に嘘の証言をさせようとしていたことが発覚。明墨が検察を論破するやり取りは、まさに痛快だ。
緋山の有罪を示す重要な証拠を1つ潰すことができた一方で、尾形は法廷で聴覚障害を明かされたことに怒り暴れ出してしまう。すると明墨はものすごい剣幕で「私はあなたの人生がどうなろうと関係ない。障害だってなんだって利用します。依頼人の利益のために力を尽くす」と冷徹に言い放った。
一度はその場を去ろうとした明墨だったが、思い出したように振り返ると、「今まであなたをクビにした会社をすべて訴えれば、おそらく1,000万円は勝ち取れるでしょう。いつでも無償で引き受けますので、よろしければ。私が言うのもなんですが、障害を理由に差別するような奴らは絶対に許してはいけませんよ」。毅然と淡々とした語り口は変わらないが、少しだけ顔を緩ませた。
依頼人を守るためなら、人に知られたくない障害でさえも利用する。しかし、敵対する証言者であっても、一人の人間として向き合った時には平等に接し、手を差し伸べる。
依頼人の無罪を勝ち取るためだけに動く明墨の人間味が垣間見えたこのシーンには、SNSでも「泣いた」「明墨、“正しい”人だと思った」など、共感や感動のコメントが殺到した。
だが、明墨の中に“正義”を見出しかけた矢先、再び開廷された法廷で、緋山の指紋が残る殺害凶器のハンマーが証拠品として提示される──。やはり緋山が真犯人だったと証拠品が語る。
騒然となる法廷を終えると、明墨は緋山にささやいた。
「事件が起こる前、あのハンマーをどこかでなくしませんでしたか?」
明墨はなんと、偽証の提案をもちかけたのだ…!
ついに“決定的な証拠”が出たが、それでもなおその証拠を潰そうとする明墨に恐怖さえ抱く急展開のラストは騒然。第2話では真実が明かされるのか、そもそも主人公の弁護士が偽証をもちかける本作では、真実など存在しないのか──秀逸なサスペンスにワクワクが止まらない。
そして同時に、恐怖さえ感じてしまうのだ。犯人は尾形と思わせるミスリードにまんまと誘導される一方、直後に「やっぱり緋山が殺人犯だった」という決定的証拠を突きつけられる。緋山役が岩田剛典だからか、彼が犯人ではあるまいという先入観も災いし、明墨が作り出した“事実”に揺さぶられ、刻一刻と変わる自身の感情・状況判断の危うさが際立ってしまう。
自分は真実を見極めることができるのか、そんなことを自問しながら、明墨に翻弄されることを楽しんでもいる。そうしてこのドラマに迷い込むように没頭してしまうのだ。
事件の顛末を追うだけでなく、視聴者に正義と悪の境界線や、人間の先入観の危うさを突きつけていく『アンチヒーロー』。随所にちりばめられた伏線に着目しながら、何者か掴みきれない明墨の言動に刮目し続けたい。
第1話はこちらから
第2話予告編はこちらから
公式サイトはこちらから
長谷川博己が「殺人犯をも無罪にする“アンチ“な弁護士」を演じるTBS日曜劇場『アンチヒーロー』最終回をレビュー
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